cachikuのブログ

元「本を読んだ気になるブログ」です。個人の備忘録である点は変わりません。

「内定がでなくても死なない」という励まし文句について思うこと。

新卒採用が盛り上がっていますね。弊社でも連日のように学生さんが面接に訪れます。

各社報道によれば、今年は売り手市場。

……だそうですが、そんな活況の中でも、なかなか思うとおりに活動が進まず、苦労している新卒生がいるのもまた事実でして……。

 

     *

 

先日、取材の帰りに寄ったカフェでのこと。隣に新卒生と社会人の組み合わせが座りました。「OG訪問かな?」と思って、ちょっと話を盗み聞きしてみると(以前に就活関係の仕事をしていたため、やっぱりどうしても話の内容が気になってしまいます。いけない。苦笑)、どうやらその様子……だったのですが、途中から次第に悩み相談へと変わっていきました。

 

今日は、その時に少し思ったことをば。

 

 

この学生さん、6月段階ですでに何十社も受けており、でもまだ内定が出ておらず、「このままで本当に大丈夫なんだろうか?」と不安になっていたそうです。

それに対して社会人の方がおっしゃったのが、

 

「そんなに思い詰めなくても大丈夫だよ。それに内定が出なくても、べつに死ぬわけじゃないし」

 

というもの。

 

     *

 

「内定が出なくても、死なない」

この励まし文句、意外とよく耳にします。それだけ苦しんでいる就活生が多いことの裏返しでしょうか。

 

ただ、筆者は個人的に、この言葉はあまりよろしくないと思っています。内定がないまま就活を終えた先に待つ現実を、きちんと伝え切れていないんじゃないかなぁ、と個人的な体験から感じるからです。

 

     *

 

筆者は就活を2回やりました。2007年(08新卒)と2008年(09新卒)です。どちらも売り手市場でした。

でも、内定が出ませんでした。

合計で200社ほど応募しましたが、1社も内定が出ないまま諦め、そのまま大学を卒業しました。4月1日は当然、無職。余談ですが、その時が人生初ニートですね。

 

新卒としての最後の面接は、2008年の6月。ある企業の最終面接でした。

そして、そこに落ちた時、気持ちも完全に切れました。

それ以降も説明会や面接には予約していたのですが、当時の採用担当者の皆さんには本当に申し訳ないことに、9割ドタキャンしました。

 

その頃は、頭では「就活しなきゃ」と思っていても、心がそれを拒否していた時期だったように感じます。説明会に応募して、嫌々ながら電車に乗って、会社や会場の入ったビルの前まで行って、そして、そこでなぜか引き返す……そんなことが何度も、何度も続きました。

いったいなぜそこまで行って……と思われるかもしれませんが、筆者自身にも理由はわかりません。ただ、どうしてもビルに入ることができず、そのままUターンする日々を送っていました。

 

     *

 

その後、就活を一旦、ストップしました。いつか再開しなきゃいけないとは思いつつも、一方で「まだ卒業まで10ヵ月くらいあるし大丈夫だろう」、そんなことを無意識に考えていたように思います。

 

それからしばらくは、普通に卒論だけやっていました。

 

     *

 

この頃、一つ変化がありました。

ゼミなどで「なぜ?」「なんでそうなの?」と尋ねられるだけで、拒否反応のようなものが出るようになったのが、それです。

 

そこまで激しいものじゃないのですが、ゼミの発表で質問を受けるたびに内心びくっとしたり、軽く取り乱したり……今までそんなことなかったので、当時は本当にびっくりしました。あまりに突然のことすぎて、原因もわかりませんでした。

 

これ、いま振り返ると、面接で落ち続けたことが影響していたのかなぁと思うことがあります。

面接でも似たような心の動きが何度もありました。なにか尋ねられるたびに、しでかした悪いことがバレるんじゃないかとビクビクする感じ。

 

まぁ、面接では終始、嘘をついていたんで、自業自得なんですけどね。

 

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やりたいことなんか、なにもありませんでした。できることもありませんでした。だから、面接では嘘をつくしかありませんでした。やりたくもないことをやりたいと(できもしないことをできるとは、なぜか言いませんでしたね……なんででしょう?)

よって、当然ながらビクビクするわけです。この嘘、ばれないよな? ばれないよな? といった具合に。もちろんばれるわけですけど。

 

ある時、大学の先輩に「先輩ができることって、なんですか?」と聞いたことがあります。自己分析でいくら探しても、自分のできること(強みというやつです)が見つからなかったので。

先輩は「バイトで磨いたコミュニケーション能力」の話とか「部活で磨いたPDCAサイクルの回し方」とかいろんな話をしてくれました。

でも、そのとき筆者が思った感想は、

 

「それならほかにもっとすごい人、いるんじゃないですか?」

 

     *

 

今から思うと、この感想を抱いている時点で、自己分析のやり方が間違っていることに気づくべきだったんですよね。筆者は「強み」を「自分だけしか持っていないオンリーワンなもの」と、無意識のうちに考えていたんです。そんなもの、あるわけないのに。

でも数年後、就活関係の仕事に携わった時に驚いたのが、こうした勘違いをしている就活生がかなり多いということでした。それまでは、ぶっちゃけ自分くらいだと思っていたんですが(周りはみんな内定が出ていましたから)

 

「強みとはなにか?」とか「企業理念とはなにか?」という、whatは就活生もきちんと理解できているんですが、「どのくらいのレベルにあるなら、強みとしてアピールできるのか?」といったレベル感は、意外と理解されていないように感じます。

 

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閑話休題。わりとどうでもいい話を一つ。

トリドールという会社があります。丸亀製麺とか運営している会社ですね。

あそこの面接で「店舗によって置いてある天ぷら、違うんですね」と話したら、「そういう所までちゃんと見てくれている応募者に会いたかった」と言われたことがあります。もうずいぶん前の話ですが。

学生さんはやっぱり「企業理念に共感しました」など抽象的なアピールが目立つらしいですが、この方は「その理念が現場や事業の中にどう息づいているのか、そこをちゃんと知ってほしい」とおっしゃっていました。

 

     *

 

続きです。

 

就活をストップしてから3ヵ月くらいは、卒論に集中していたのもあってか、平和に過ぎました。お祈りメールも届かないから心をやられることもないですし、面接でビクビク怯えることもありません。すごく平和でした。

 

そんな生活が終わりを迎えたのは、10月のことでした。

10月1日。

そう、内定式です。

 

その日、家のテレビでNHKをつけた時に映し出された、みずほ銀行とイトーヨーカ堂の内定式を画面越しに眺めていました。

 

ものすごく虚しい、60秒でした。

人生で一番虚しかったといってもいいくらい。

 

自分が「ダメ大学生」の烙印を押されたような気がしました。世の中の普通の大学生はみんな今頃、内定式に出ている……それなのに自分は家でテレビを見て……そう思うと、齢24(一浪一流です)にして軽く泣きそうになりました。

 

そしてこのとき、どこの会社の内定式にも出られなかった自分は、社会に必要とされていないんだなと感じました。

 

     *

 

だからか、なぜか危機感や焦燥感は湧きませんでした。湧き上がるのは、ただひたすら「自分は社会に必要とされていない」という虚しさだけ。

そう思うと、わずかに残っていた「いつかは就活、再開しなきゃ……」という小さな焦りも吹き飛びました。そもそも必要とされていないのだから、内定が出るわけがない、だからやる必要がない、そんな感じに考えていたのだと思います。

 

     *

 

そんな筆者の心に、再び危機感が芽生えたのは、3月20日。

卒業式の翌日でした(ちなみに卒業式には出ていません)

 

卒業式の日を超えて大学生でなくなった時、ふと「自分は今、無職なんだ」という事実を痛感させられました。それでようやく重い腰が上がり、9ヵ月ぶりに就活を再開することになります。

 

ですが、もう応募できる求人がありませんでした。

 

リクナビマイナビを覗いても、募集中企業数は文字通りゼロ。説明会など、どこもやっていません。学生を募集していたのは、新卒派遣会社(登録会の参加者募集)だけでした。もう正社員採用の道はなくなっていました(ナビ上だけの話ですが)

 

その事実に、いよいよ焦りが募り、とりあえずこの登録会に片っ端から応募。

でも、ここまで内定が出なかった学生に対する期待値は企業側も低かったのでしょう、書類自体がほぼほぼ通らず……。

 

最初に設定された面接は、奇しくも4月1日。

卒後の無職が確定した瞬間でした。

 

     *

 

4月1日。

親には「入社式だから夜遅くなる」と嘘をついて家を出ました。

 

筆者は親に内定が出ていないことを言っていませんでした(嘘の内定先をつたえていました)。でも、たぶん薄々気づいていたとは思います。入社前には研修とかあるものですし、それっぽい資料とか届くものですしね。

ただ、なにもいわなかったのは、自分の息子が無職であることを信じたくなかったのか、あるいは気を遣ってくれていたのか……どちらにしても、申し訳ない次第です。

 

4月1日。世間は入社式。

 

筆者は11時の面接を終えると、その後はカフェを転々としました。浜松町駅→東京駅→代々木駅と乗り継ぎ、それぞれの駅のエクセルシオールタリーズを渡り歩き、ひたすら本を読んでいましたね。どこの店でもアイスコーヒー1杯で2〜3時間ねばるという、最悪な客でした。でも、罪悪感とかわかないくらい、もういろいろ麻痺していましたのを覚えています。

その後、19時くらいに家から3つ先の駅のスタバに入り、そこでも同様に21時過ぎくらいまで時間を潰します。

 

そうして、21時。

今から家まで歩いて帰れば、ちょうど良い時間につくだろうと思い、スタバを出て、3駅分の距離を歩くことにしました。

 

     *

 

1駅ほど歩いたときでした。

 

雨が降ってきました。

 

折りたたみは持っていたのですが(朝から曇天だったので)、それでも強い風に煽られた横殴りの豪雨で、あっという間にずぶ濡れになりました。

でも、さすがにこのまま歩いて帰るのは無理だと思い、電車で帰ろうとその駅に入りました。

そして、とりあえず体を拭くためにトイレに入りました。

……。

 

 

 

気づいたら、泣いてました。

 

便座にすがりつくように、泣いてました。

 

 

 

     *

 

自分でも驚くほど、あまりにも突然のことでした。文字通り泣き崩れるというんでしょうか。いきなり膝に力が入らなくなって、そのまま便座に抱きつくように顔つっこんで泣いてました。

 

親に入社式に行くと嘘をついて、みんなが入社式の頃、自分はひたすら時間を潰すためにカフェを転々とするという虚しい努力に精を出し、そして雨に降られてずぶ濡れになってトイレに駆け込む……。そんな惨めさに、心がついに耐え切れなかったんでしょうかね。

 

     *

 

この時に怖いなと思ったことが二つあります。

一つは、自分の心にそこまで大量の、あるいは根深い「つらい」という感情が潜んでいたのに、それにまったく気づいていなかったということ。そしてもう一つは、ひとたびそれが爆発すると、もう理性ではどうにもできないということ。

 

文字通り思考と筋肉が止まった衝撃は、いまでも鮮明に覚えています。声を抑えようとしても抑えられない、体はびっくりするくらい痙攣する、なんの前触れもなく胃液が突然こみ上げてくる、気づいたときには嘔吐している……自分の体がまるで言うことを聞かなくなりました。

 

人間の心身は、追い詰められると予想だにしなかったことが次々と起こるものなのですね。まさか便座に顔を突っ込んで泣く日が来るとは思いもしませんでした。

 

     *

 

その後、本当に運が良かったことに、就活はわりとあっさり終わりました。

その日に面接を受けた会社から人生初の内定をいただき、4月6日に入社。人生初のニートは5日で終わりました。

 

 

 

……といった感じで、内定がないと、わりと本気でつらいよという話でした。

 

「内定が出なくても、死なないよ」たしかにその通りです。

でも、個人的には「内定は出なくても、たしかに死なないよ。でも、たぶん想像を絶するくらいつらいよ」という後半まで含めて伝えてあげたほうが良いのではないかと思っています。

 

まぁ、筆者のメンタルが弱いだけという可能性もありますけどね。数年後に不安障害で会社を1.5ヵ月も休職したりしますし。苦笑。人によって感じ方もそれぞれですから、なんともいえません。

 

なにはともあれ。

今日のところは眠いので、寝ます。