仕事で喧嘩した相手と仲直りしてきた話
ちょっと前の話ですが、仲直りしました。
相手はニート時代に一緒に仕事をした方(ニートなのに仕事とはこれいかに)。就活市場でお仕事をされていて、筆者がゴーストライターをした方でもあります。仮にAさんとしましょう。
ゴーストライター後、Aさんから独立して就活サイトを立ち上げるという話を聞き、そのときに「ぜひ一緒にやりましょう」とお誘いをいただきました。そして受けさせていただきました。
受けた理由は、単純に面白そうだったのと、今後就職するときにネタになるなという打算があったのと、あとはAさんに協力したいと純粋に思ったから。就活に対する価値観や問題意識、そして就活サイトのあるべき姿に対する考えが似ており、なにより人としてすごく気が合ったので、気がつけば友達感覚で「いいですよやりましょう!」と答えていました。
で。喧嘩しました。
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事の発端は、サイトをどう伸ばしていくかで考えが対立したこと。
簡単にいえば、筆者は記事の本数を減らしてでもコンテンツの質を重視する方針で、Aさんはコンテンツの量を重視する方針でした。
実際はAさんも「量より質」の人でした。だからこそ気が合いました。
じゃあ、なぜAさんは量より質と言い出したのか?
それは、協力してくれている別の会社から「そうしなさい」といわれたからでした。
実はこの事業、Aさんの会社と外の企業(T社とします)が2社共同でやっていました。サイトのシステム構築などをこのT社がやってくれていたのです。人や物を借りるかわりに、こちらからは利益を返す、そんな協業関係でした。週に何日かオフィスも借りていました。
T社もいくつかメディアを持っていました。そしてそれを「質より量」の力で、とても大きな規模に成長させていました。
だから、その方法を筆者たちのサイトにも求めたのですね。
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ただ。
詳細は省きますが、筆者もAさんも、そのやり方ではおそらく誰もうれしくないサイトになると考えていました。
就活生は、役に立たない情報を掴まされて時間が無駄になり、ストレスもたまる。
Aさんもそういうことがやりたくてサイトを立ち上げたわけではない。
筆者も量より質を追求したいAさんの姿勢に共感したからこそ協力した。
おそらく成功しないからT社も儲からない。
意味ないじゃん、と。
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で。
ある夏の日の会議室。
筆者とAさんは、話し合いました。
筆者は言いました。「どうして量より質が大切なのかをきちんとB社に説明して、最初の方針を貫くべき」
Aさんは言いました。「協力してもらっている以上、無碍にはできない」
筆者は言いました。「たしかに人や場所を貸してもらっている恩義はある。だからこそちゃんと成功させるためにも説得すべき」
道が、分かれました。
そこからは互いに喧嘩腰・・・というほどヒートアップはしていませんが、それでもかなり激しくやり合いました。罵詈雑言などはなく、表向きはあくまでも互いに冷静かつロジカル・・・でも語気や言葉選びは次第に熱を帯びていき・・・ある瞬間を境に、その熱が一気に冷えていきました。
文字どおり場の空気が冷えたのを感じました。生まれてはじめての体験でした。
(実際にそんなことあるわけないですから、頭おかしかったんでしょうね。あるいは誰かが社内の空調を強めたかでしょう)
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おそらく会議室に入ったときから、互いに「一緒にやるのも今日で最後だな」と思っていた気がします。だからこそ、心の底から本音をぶつけ合えたのだとも。
だからか、もう互いに言いたいこともなくなり、会議室が何十分と無言に包まれても、不思議と後悔というか気まずさというか、そういうネガティブな感情はありませんでした。なんか妙にスッキリしたのを覚えています(何度か途中でトイレに立ったせいかもしれませんが)
その日、筆者はAさんから離れました。
正確には引き継ぎがいろいろあったので稼働はしていました。
でも、心は確かに、離れました。
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そのときに感じたのは、価値観には3つの側面があるのだなということ。
- 中身
- 強度
- 柔軟性
1の中身はそのままです。
この点については、筆者とAさんは同じ方向性を向いていました。就活サイトのあるべき姿や、そのサイトが誰にとってもうれしいものになるためには「量より質」の運営方針を崩してはならないこと・・・確かに一致していました。
2の強度は、その価値観にかける思いの強さです。
考えることだけなら、誰にでもできます。ただそれを実現するためにさまざまな行動を起こせるかどうかは別の話。
このときのサイト運営においては、Aさんが営業、筆者がコンテンツ制作といった役回りでした。ただ、2人しかいませんから、仕事なんて選んでいられません。筆者が営業することもあれば、Aさんが取材に行ってきてくれたこともあります。
自分たちが思い描いたものを実現するためなら、どんなことでも厭わずに頑張れるかどうか、これが価値観の強度です。
そして、3番目が柔軟性。
筆者とAさんは、ここでぶつかったと思っています。
これは「どんなことがあっても、その価値観をまっとうできるかどうか」です。
2の話と矛盾するようではありますが、そうはいっても譲れない部分がやっぱりあります。そして今回、筆者はその点における柔軟性がなかった(T社に対して譲らなかった)のに対して、Aさんは柔軟性がありました(T社に対して譲った)
この1件以降、特に相手の価値観にどれだけの柔軟性があるかは、わりと見るようになりました。
そして、少なからず自分の価値観も柔軟にしておこうと思うようにもなりました。
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そうして身も心もAさんのもとから離れたわけですが、日が経てば経つほど後悔が押し寄せました。
あれで良かったのか。投げ出したも同然じゃないか。本当はT社の言うとおりにやっていたほうが良かったんじゃないのか・・・。
正解がないビジネスの世界だからこそ、どんな道を選ぼうとも少なからず不安や後悔がついてまわるものだとは思いますが、当時はそんな理屈で心を慰める余裕もなく、ただただラノベとアニメとゲームに没頭することで雑念を振り払っていました。
・・・で。
このあいだ、ふとAさんから連絡がきました。
「久しぶりに会いませんか?」と。
仕事の価値観がずれただけで、人として嫌いになったわけでは欠片もないので(気まずくて連絡は取っていませんでしたが)、普通に「いいっすよー」と返事。渋谷で再会することになります。
そして当日。Aさんは意外なことを言いました。
「あのときT社の言うとおりにしたのは、やっぱり間違いだったなって思います」
聞けば、筆者が離れたあとは、T社の言うとおり「質より量」に転換。1日10記事公開というノルマを外部ライターを使って回していたそうです。
・・・が。結果は散々(あくまでもAさん視点)
わりと早い段階でサイトを閉じることになってしまったそうです。
閉鎖したときの記事総数は、数千本。ただ最後までランキング上位にあったのは、すべて筆者が最初期に書いた約100本の記事で、最終的な月間PV(数十万まで伸びたそうです)の90パーセントほどを占めていたそうです。たぶん筆者に気を遣って、温かい言葉をかけてくれたのかなと思っています(ひねくれ者)
もちろん、筆者の記事が「質より量」に転換したことで増えた記事のseo効果に乗っかる形で伸びた可能性は否めません。というか、おそらくそうだと思います。筆者が関わった最後の月、4ヵ月目の月間PVはたかだか5万でしたから。
とにもかくにも。
そこからは互いに謝罪ばかり。
「子どもっぽくてホントすみませんでした・・・」
「いえ。むしろこちらこそお誘いしたときのサイトをまったく違うものにしてしまって・・・」
「いえいえ・・・」
「いえいえいえ・・・」
「いえいえいえいえいえ・・・」
その直後に出てきたハンバーグのデカさにビビって、ほとんど忘れましたけど。
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こうして、筆者とAさんは仲直りしました。
そして実はいま、Aさんと一緒にいろんな仕事をしています。あと「いつかまた絶対に就活サービスを立ち上げましょう。今度は自分たちが100パーセント納得する形で」という話もしています(それまでに就活サイトや就活塾なんてものがなくなる時代が来るのが一番ですけどね)
そんな中で思うのは、正直ちゃんと本音を吐き合ったのは良かったかなということ。たとえ一度、ケンカ別れしたとしても。
本音のすべてをちゃんと正面からぶつけ合ったおかげか(かなり変化球を投げ合った感じありますけど)、いまはすごくやりやすいですし、なにより楽しいです。思ったことは、照れも恐れもなく、なんでも話せますし。
おそらく、Aさんから「久しぶりに会いませんか?」と連絡をもらっていなかった、そのまま一生会わなかっただろうなと思うと、その一言を絞り出した勇気といいますか気概といいますかに感服感謝です。
なんかまとまりがありませんが、とりあえずここまで。
ゲームします(仕事しろ)