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コーベット『海洋戦略の諸原則』vol.002|攻勢と防勢は表裏一体である、片方だけでは存在し得ない

《参考図書

  • コーベット『海洋戦略の諸原則』(原書房、矢吹啓訳)

 

《今話で取り扱う範囲》

  • 戦争の理論―攻勢と防勢(第1部・第2章)

 

     ◇

 

攻勢と防勢は表裏一体である、片方だけでは存在し得ない

第1章の内容から、戦争はその目的の中身と重要性によって性格が異なることが分かりました。ただ当然ながら、その偏差(平均値との差。ここでは、戦争の理論的定義とどれほど異なるか)は無限にあるため、戦争を実践的に研究することは、ほとんど不可能であるようにも思われます。

 

ですが、有益な区分体系などが存在するのも事実だとコーベットは言います。その一例として、彼は「戦争の政治的目的の区分」を挙げます。

 

 

*戦争の目標と「攻勢/防勢」

コーベットが提示する「政治的目的」の区分は、次の通りです。

 

  • 積極的目標:敵からなにかを奪いとる
  • 消極的目標:敵が優位に立つのを妨げる

 

これが、政治的目的の種類です。もし戦争の目的が積極的なら、その戦争は攻勢なものとなり、一方で消極的なら、戦争は防勢となります。ちなみに、この両者の概念についてコーベットは詳しく説明していませんが、字面の通りに捉えていただければ、話は理解できると思います。

もっとも、これはあくまでも程度の問題です。どちらの目的においても、攻勢あるいは防勢を排除しているわけではありません。

 

たとえば、海軍に関して言えば、敵艦隊に対する攻勢作戦を行い、ある海域の制海を確保することなしに、国家の防勢を固めることは歴史が不可能であることを証明しているとコーベットは言います。

これは、カウンターを想像すれば分かりやすいでしょう。カウンターは、単に防勢=受け身ではありません。もし完全に受け身なら、攻めることはないからです。反撃は立派に攻勢的な作戦であり、ここから攻勢と防勢が相互補完的な関係にあることが分かります。

ひたすら守っているだけでは、ただ敗北を待つのみ。言い換えれば、防勢の本質は反撃、つまり隙を見て一撃を加えるための攻勢精神を保ちつづけ、その機会を虎視眈々と狙うことにあるわけです。

ただ、一つ言えることは、もし政治的目的が積極的であれば、戦争計画は全体的には攻勢でなければならず、消極的であれば、全体的には防勢でなければならない、ということです。この点から、よく言われる「攻撃は最大の防御」という格言が、いかに未熟か理解できるとコーベットは述べます。この格言は、防御は愚かで無気力、そして常に敗北に通じるという誤解に基づいているからです。

 

     *

 

この攻勢と防勢の特徴を説明する上で、コーベットは日露戦争を例として引きます。

日露戦争における日本の主目的は、朝鮮がロシアに吸収されることを防ぐことでした。つまり、その政治的な目的自体は「敵が優位に立つのを妨げる」こと、よって消極的です。ですが、日本が目的を達成するために唯一の効果的な方法は、朝鮮を奪取することでした。こちらが奪ってしまえば、敵に吸収されることはないというわけですね。よって、この方法の性格は「敵からなにかを奪いとる」こと、すなわち戦争の実践においては積極的だったわけです。ここからも、攻勢と防勢は相互補完的な関係にあることが分かります。

 

こうした歴史的事実があるにも関わらず、海においては防勢など存在しないと反論する者がいるとコーベットは言います。

たしかに、この言葉は「戦術」に関しては全般的に真実です。攻めることなく勝てる戦争は、まずありえないからです。しかし、だからといって「防勢など存在しない」と一蹴することもできません。たとえば、防御を固めた停泊地のように、防勢の戦術拠点は海上に存在してきました。また、機雷はそもそも防勢的な兵器です。

 

実際、コーベットの母国であるイングランドは、この防勢の威力を早くから痛感していました。

防勢の相手は通常、自分たちの海域で基地の近くにとどまっていたため、こちらがそれを攻撃して決定的な戦果を上げることは、ほぼ不可能でした。不利になれば向こうは基地へ逃げられますし、こちらは遠出しているので、軍需物資や食糧などの供給も大変だからですね。逆に、こちらが機会をうかがったり、実際に攻めこんだりするうちに疲弊し始めると、そこを拠点に反撃してきて苦しめられることになります。

イングランドは早くからこの悩みに直面していたのです。その相手として代表的なのが、英蘭戦争などでイングランドを苦しめてきた海洋国オランダでした。

 

こうしたオランダのような策略に対して、イングランドは次の2つの戦術でもって対抗していました。

 

  1. 敵がこうした策略を用いることを防ぎ、開かれた場所での交戦を強いる
  2. 敵とその基地のあいだに割りこんで交戦に持ちこむ

 

こうした戦術は、特に自軍が相手を撃滅させることができないほど弱いとき、それでも敵艦隊が任務を実行するのを防ぐために好んで使われました。もっとも、作戦自体は「敵艦隊の任務の実行を防ぐ」ことが目的のため、その性格は防勢です。よって、実行においては、反撃のあらゆる機会を見逃さないように、常に一瞬の隙をつく攻勢の精神を保ちつづけなければなりません。

 

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《露骨な宣伝》

趣味で海戦の小説を書いていたりします。

 

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