「顧客のため」を盾にメンバーの口を封じてはいけないと思った話。
前職時代、リーダーになって初めてのプロジェクトで困ったことがあります。それは部下のマネジメント。
当時まだ新卒2年目だった自分に、マネジメントのイロハなどわかるわけもなく、しかも上司は他のプロジェクトの面倒で忙しいとのこと。仕方なく自分でなんとかせねばと思い、自分なりにやってみるわけですが、なかなかうまくいかず。
今日はそんな苦境を3時のおやつで脱したお話です。
当時のプロジェクトのメンバーは4人。リーダーの筆者が1人と、有期契約社員の方が3人でした。
皆さん当然ですが、筆者より業務経験はもちろん社会人経験も豊富。あらゆる意味で新参の筆者がリーダーとかどう考えてもおこがましいわけです。とはいえやらなければなりませんから、頑張ります。
が、上手くいきません。
成果は出ていたのですが、メンバーはとにかく待遇面などの現状に対する不満が強く(残業過多など)、全員が今にも辞めそうな状況。加えて上司であるマネージャーのサポートはほぼ皆無。着任1ヵ月たった頃には早くもストレスフル。どうにかなってしまいそうでした。
というわけで本屋へ駆け込み、ビジネス書を片っ端から立ち読み。少しでも役に立ちそうだと思った知識・技術を一つでも多く叩き込んでいき、折に触れて実践してみました。
が、上手くいきません。
そうしていよいよ心身ともにヤバイと思った時、以前のプロジェクトでお世話になったマネージャーが久しぶりに食事に誘ってくれました。後から知ったのですが、どこからか筆者がヤバイということを知って気を遣ってくれたそうです。
そこで、その方から頂いた言葉に、すごくはっとさせられました。
「お前、部下のこと何も知らないだろ?」
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そういえば、メンバーとちゃんと話したことあったかな。そう思いました。
炎上プロジェクトで時間がないのは確かだったのですが、それでも少しでも時間をつくって、メンバーのことをちゃんと理解しようとしたかなと。
部下を知らずにマネジメントなんかできるはずがありませんよね。
そんな当たり前のことに、まったく気づいていませんでした。
あるいは、当たり前のことだからこそ「そんなの当たり前じゃん」と舐めていたのかもしれません。
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それから、筆者はまず部下を知ることから始めました。
仕事におけるやりがいや待遇面に対する望み、これからどうなりたいのか(正社員になりたいのかなど)などなど。さらに仕事以外のプライベートな面も可能な限り知るようにしました。
一人(女性)は、有期契約のままでいたい。お菓子が好きでめちゃめちゃスイーツに詳しい。
一人(男性)は、正社員になりたい。電車と競馬が大好きで料理も得意。家の近くに美味い寿司屋があるとのこと。
一人(女性)は、有期契約のままでいたい。結婚されていて、夫婦そろって漫画好き。旦那さんは休日漫喫常駐とのこと。
こうして少しずつ3人のことを知っていきました。この過程、仕事どうこう関係なく、純粋にすごく面白かったですね。
特に2人目の男性とは、共通の趣味(競馬)もあって、すごく話が合いました。一緒に彼の自宅近くの寿司屋(ともんじゃ屋)に行ったこともありました。ここの寿司屋にウィルキンソンのジンジャエールが置いてあったことに(ほとんどの飲食店に置いてないのですよ、これ)、筆者がやたら興奮していたのを、彼は軽く引いて眺めていました。笑。
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この時、自分の気持ちに変化がありました。
それは「仲良くなったことで、みんなのほうを向いて仕事をするようになった」ということ。
具体的には「自分の思うプロジェクトの課題」ではなく「メンバーの思うプロジェクトの課題」を解決しようと動くようになりました。
例えば、当時の課題の一つに「非効率的な業務フロー」がありました。これは筆者もメンバー全員も問題だと思っていました。
ただ、いくら同じ問題意識を持っていたとしても、その解決手段が同じになるかというと、そうではありません。
着任したばかりの頃、筆者は「業務フローを整備すれば、より成果が上がる。残業も減る。そうすれば請求単価も上げられる(このプロジェクトはアウトソーシングでした)。だから効率化すべきだ」と考えていました。
ですが、仲良くなった後のメンバーが口にしたのは「業務フローを整備すれば、今より仕事が楽になる。残業も減る。だから効率化したい」という思いでした。要は「もっと楽したい」だったわけですね。
そして当然ですが、目的が違えば、採るべき手段は違います。テストで80点を採るための勉強と100点を採るための勉強が違うのと同様に。
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さて、ようやく本当の意味で課題も明らかになったので、どうしたかといいますと。
メンバーがやりたいこと全部やっちゃうことにしました。笑。
まずスイーツに詳しい女性の方が「昼休憩40分だけだと少ない」ということだったので、3時からの15分間をおやつタイムにしました。これは、みんなでお金を出し合って、その人にスイーツを買ってきてもらい、3時のおやつで食べるというもの。この間は、交代制の電話番の人以外は仕事禁止にしました。筆者たちのプロジェクトの島だけ、業務都合上の理由から完全に隔離されていたからできたことですね(もちろん委託先の窓口の人へ事前に話は通しました)
さらに全員から「有給を一度も取ったことがない」という不満も聞いたので「じゃあ月に1回の有給取得を必須にしよう」と決めました。それ以降、このプロジェクトでは月初になると、まず筆者が「今月はどこ休みますか?」と聞くのが恒例となりました。笑。
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こんな感じでいろいろやりたい放題やっていると成果は落ちそうなものですが、予想以上の伸びを見せました。
筆者がこのプロジェクトに関わっていたのは10ヵ月ですが、メンバーのおかげで全月で目標を達成。後半の8ヵ月は過去最高実績を更新し続けることができました。
理由としては、メンバーが仕事に対して、前向きになってくれたから。
いろいろな意見を出したり、改善提案をしてくれたり、本当にさまざまな提案をしてくれました。着任したばかりでわからない仕事の多い筆者には、これが凄く助かりました。
後日、ある時の成果達成祝いの飲み会で、メンバーからもらった言葉ですごく印象的だったものがあります。
「今までのリーダーはお客さんのことばっかり見てたけど、●●さんは私たちのことを見てくれたから、こっちも頑張ろうと思った」
顧客志向はすごく大事ですけど、その顧客のために価値を創造するのは社内のメンバー。だからこそ、きちんとメンバーのほうも向いて仕事をしないといけないと、改めて思いました。
「顧客志向」を理由に、社員の充実を犠牲にしてはいけないな、と。
「顧客のため」を盾にメンバーの口を封じてはいけないな、と。
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おそらくそれまでは、無意識のうちに「社員とは顧客のために心身を犠牲にするもの」という感覚があったような気がします。誰かにそう教わったわけではないですが。
自分一人そう考えているだけなら、別に構いませんが、メンバーからするといい迷惑ですよね、これ。そんなことを教えてもらった10ヵ月だったように思います。
余談ですが、この1件以来「答えはビジネス書ではなく現場にある」と考えるようになりました。これもまた、今に至るまで強く根付いた良い教訓のように思います。