「嫉妬する暇があるならそいつを見習え」
今回は、昔の上司にそんなことを言われた話です。
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「こうしていると、どんな風景でも綺麗に見える。そうすれば、どんなキツい時でも、少しは意味のあることだと思える」
たしかそんな意味内容だったと思います。
いきなりなんの話かと思われるでしょうが、これはその昔、マガジンで連載されていた『トッキュー!!』という漫画に登場するキャラクター・石井盤(めぐる)青年のセリフです。100キロ行軍(山梨の某所から羽田まで24時間以内に走破するという最終入隊試験だったかと思います)の最中、兵吾が「なんでいつも音楽、聞いてるの?」とやや突っかかるように尋ねたら、いつも勝気で弱さなど見せない盤が、やや神妙な横顔でこう答えたのがいまでも印象に残っています。
ただ、そこは自信家の盤青年。あくまでも変えるのは世界のほうで、決して自分ではないのはさすがだなと、なんか意味不明な納得感を得た記憶もあります。
今回は彼とは逆に、自分を変える話です。
高校から大学にかけて、筆者は非常に心の汚い人間でした(突然ですが。苦笑)。プライドが強かったといいますか、過去に拘泥していたといいますか……やたらに人と自分を比べて、自分のほうが上(優秀、物知りなど)だという点を探し出そうと必死になっていたのを覚えています。もちろん決して表には出しませんでしたが。
それは物凄く些細な点にも及びました。わかりやすい例か微妙なのですが、たとえば自分が道を歩いていたとき、正面から人が来たとします。そして、双方が同じ側(右なら右、左なら左)にいたとしましょう。このとき、意地でも道を譲りたくないタイプでした。笑。いまから思うと、なぜこんなどうでもいいことに拘っていたのか、甚だ疑問なのですが、それくらい自意識が強かったのでしょうね……。
ラノベ新人賞受賞に挑んだ際、最も苦労したのは、実はこうした自意識、簡単にいえば「嫉妬体質」を改善することでした。
では、なぜそうしようと思ったのか。理由は2つあります。
- そんな自分が嫌いだったから
- 明らかに成長を阻害する因子だから
1. について。
上記のような心の汚いことを考えたり、行ったりするにつけ、直後に必ず自己嫌悪に陥るのが常でした。「なんでこんなことやってんだ」「なんて心が汚いんだ」と。
ですが、それでも心の奥底にびっしり根を張っているのか、意識してもなかなか抜けることがなく……いつか絶対に変えたいと思い続けていましたが、そのままズルズルと時間ばかりが過ぎていきました。
2. について。
こうした嫉妬体質は、明らかに成長を阻害する因子だと思っていました。そのためラノベ新人賞受賞に挑戦する上で、是が非でも変えると決めました。
嫉妬が成長阻害因子だと思う理由
ところで、なぜ嫉妬は成長阻害因子なのでしょうか。
たとえば、筆者も人間ですので、面白いと思うラノベもあれば、正直あまりそうでないラノベもあります。そして、そうでない作品は、そこで読むのを諦めてしまうこともありました。作品名は控えますが、アニメ化されたくらい人気の作品で、1巻の半分くらいで断念したものがいくつかあります。苦笑。
もっとも、いちファンとして読むのであれば、それでいいと思います(むしろ、それが健全だと思います)。ですが、新人賞の受賞をめざすとなると、そうもいきません。自分が「正直そこまで面白くない」と思った作品でも、それが人気作や受賞作なら、そうなった理由を分析する必要があります。自分が理解できていないからこそ。そして、そのためにはちゃんと読まないといけません。
ただ、その作品の面白さを自分が理解できないと、「こんな面白くもない作品が……」と嫉妬のほうが強くなり、その作品を遠ざけるようになりかねません。ですが、それでは経験値が溜まりません=成長が阻害されるわけです。
また、嫉妬すると目が曇ります。具体的には、本来なら見習うべき人の中から、欠点や弱みを探そうとし始めます。いわば、自分が相手よりも劣っているのを妬んで、相手の足を引っ張って引きずり降ろそうとするわけですね(書いていると、過去の自分が思い起こされて、なんかグサグサ来ますが……。苦笑)
このように、嫉妬すればするほど、それだけ貴重な勉強機会を失っていると個人的には思います。
嫉妬しないことは不可能
ただ、だからといって「よし! 明日から嫉妬しない!」などとは思いませんでした。個人的には、嫉妬の種が芽生えるのは防げないと考えていたからです。
インフルエンザなどの感染症と同じだと考えればわかりやすいでしょうか。人間はウイルスが体内に入ることを防ぐことはできません。ただ、入ってきたウイルスを体内の細胞が頑張って排除してくれることで、病気にかかることなく過ごせているわけです。
嫉妬も同じで、絶対に芽生えることは防げない……ただ、その感情をコントロールすることで、成長阻害因子としての機能を排除することはできると考えました。
嫉妬のコントロール法
そういうわけで、筆者は嫉妬をコントロールする方向で対策することにしました。具体的にやったことは、大きく以下の通りです。
- お前は大したことないやつだと自分に言い聴かせ続ける
- 実生活の中でひたすら自分を落とす
- 人を叩くのではなく、良いところを探す
- 身内の褒め言葉は真に受けない
- 相手の見えない部分に想像を向ける
1.について。
自分のことを「主観的に」優秀だ、凄いと思っているから(特に凄くもないのに)、嫉妬の種が芽生えるのだと判断して、まず自分が大したことないと(可能な限り「客観的に」)自覚させることから始めました。
たとえば、ラノベ新人賞の投稿で「PDCAを回す」という話を書きましたが、あれを管理するために一つのエクセルをつくっていました。横列に「P」「D」「C(G)」「C(B)」「 A」という5項目を置き、縦行には作品名を並べたものです。そして応募するごとに、これを埋めていきます。
このとき「C(G)」の欄は、必ず空欄にしていました。これは「C(Good)」の略で、簡単にいえば「良かった点」を振り返る列です。ここを必ず空欄にすることで「お前の作品には、良いところなど一つもない」ということを、常に自分に言い聞かせていました。ちなみに「C(B)」は「C(Bad)」の略で、もちろん「悪かった点」です。ここが応募のたびにパンパンになっていた(敢えてしていた)ことは、いうまでもないかと思います。苦笑。
2. について。
これも1.と同じですね。最初から自分を最底辺まで落としておけば、自分が凄いヤツだなどと間違っても思いません。
最たる一手が、ニートになったことです。この第一の目的は「時間を捻出すること」ですが、副次的には、この嫉妬体質改善のために「自分を社会的産業廃棄物にする」という目的もありました。
ほかにも、日常生活の中で徹底的に自分を落としていきました。道は譲るようになりました。笑。あと、歩く速度もやたらに遅くなりました。遠い昔は、なんか競うように隣を歩く人がいるだけで、イライラしていたものですが。笑。ほかにもいろいろありますが、要はそうした些細なレベルから、徹底的に自分を社会の最底辺めざして、落としに落としていきました。
3. について。
2.とも絡む話ですが、嫉妬が芽生えそうなときは、相手の良いところを探すことも意識していました。
先にも書いたように、嫉妬に振り回されると、ついつい相手を叩いて引きずり降ろそうとしがちです。自分が相手の土俵に上がれないから、向こうに落ちてきてもらおうというわけですね。もちろん、そんな試みが成功するわけなどなく、そして自尊心が満たされることもなく、虚しさだけが残るのですが……(自戒)
対して、良いところを探すというのは、こちらのためにもなります。相手の作品のどこが面白いのか、それを知るわけですから。
このように、良いところを探すことには得しかありません。ただ、もちろん「作品、面白かった」「主人公、格好いい」というような表面的に良いところを探すのではなく、なぜその主人公を格好いいと思ったのかなど、きちんと理をもって探すことが大切だと思います(そうでなければ、再現性が担保できません)
4. について
身内は褒めてくれるものです。ですが、それは同時に「自分は凄い」と思い込む原因にもなりかねません。
そのため、ラノベ新人賞受賞をめざすあいだは、この要因となり得るSNSなどはいっさい利用しませんでした。……もっとも、たいして知人もいなかったので、あまり困りませんでしたが。苦笑。
5. について。
これが最も大きな効果があったように思います。
嫉妬を加速させる要因の一つとして「相手のことを知らない」ことがあると考えていました。つまり、嫉妬する側が「あいつのほうが幸せ」「あいつのほうが良い思いをしている」と妬むところの「幸せ」や「良い思い」を手にするために、相手がどれだけ努力をしているのかを知らない、ということです。
自分自身、ラノベ新人賞の受賞をめざしてみて、やはり自分が望むものを手にした人たち、いわゆる「凄い人たち」は、例外なくとてつもない努力をしているのだろうと、なんとなく感じました。そして、そういう話はなかなか表には出てきません。
故になにが起こるか。
それまでtwitterやブログで「ラーメンウマー♪」や「会社ウゼー!」と言っていた人が、つまり「見る側からすると大した努力をしているように見えなかった人」が、いきなり成功したかのように見えるのではないかと思います。
ただ、そうした皆さんは裏で並々ならぬ努力をしているはずなのです。
ですが、そうした部分が見えず、むしろ「ラーメンウマー♪」など平凡な日常ばかりがtwitterやブログから見えてしまうからこそ、いきなり凄い内容がアップされると、一気に嫉妬心が爆発してしまうのではないか……そんな風に思います(あくまで個人的な体験談をベースとした想像ですが)
だからこそ、嫉妬が芽生えかけたら、彼・彼女のそうした背景を知ろうと、想像力を働かせました。そうした部分を少しでも知ろうと心がけていました。
「嫉妬する暇があるならそいつを見習え」
タイトルの言葉は冒頭にも書いた通り、上司からもらった言葉です(さっき確認を取るまで、誰に言われたのかすっかり忘れていましたが。苦笑)。当時、心にグサリと来た記憶が鮮明にありますが、まさにその通りだなぁと、いまは心底から思います。
そして、こうした根深い人間性も、ちゃんと意識して変えていこうとすれば、意外と変えられるんだなと知ったのも、この3年半の大きな糧だったように思います。