cachikuのブログ

元「本を読んだ気になるブログ」です。個人の備忘録である点は変わりません。

【ラノベ創作論】バトルもの主人公は「どうせ勝つんでしょ?」と思われてはいけない

前回の欲望フルスロットルな記事(↓)だとさすがに読みにくいと思ったので、分割版をアップしていきます。というわけで、今回は「主人公が等身大であるべき理由」です。

 

smug.hatenablog.com

(前回の記事↑)

 

ちなみに分割は「したほうが良い」と判断した部分のみ切り出します。

 

 

主人公が等身大であるべき理由

りゅうおうのおしごと!』の主人公は、ご存じのとおり(?)九頭竜八一竜王。史上4人目の中学生棋士、史上最年少タイトルホルダーという倍率ドン!さらに倍!な感じで棋界最高位の一角を担う少年です。

そんな彼、周りにはたくさんの幼女やツンツンした幼馴染、巨乳のお姉さん方とハーレム状態。しかし本人は周囲が抱く好意に対して酷く鈍感という、絵に描いたようなテンプレっぷりです。

 

・・・と。ここで終われば、ただのテンプレキャラで終了なのですが、彼の魅力はその先。それは、とにかく「等身大で人間らしい」ということ。

 

     *

 

彼は年頃の少年のように、喜び、怒り、泣き、笑います。人として、良い意味できれいであり、また良い意味で汚くもあるのです。そして、この「汚い」という部分が、個人的にすごく好きです。

例えば、第1巻・第1譜「あいがかり」の章。あいが弟子入りを志願にやってきた際、実力を見極めるためにと一局打つことになります。このとき八一はあいが力勝負を挑んできたのを目にして「………舐められたもんだな……」と呟きます。

 

 

 

 

あと、なんといっても忘れてならないのは、第5巻・第2譜「スピニングドラゴン」から第3譜「逡巡の恋」にかけて。

竜王位防衛戦で3連敗を喫した八一が、天童駅のホームで自身の写真を撮る鵠を「ウザい」と思い、不貞腐れたように彼女を振り切って新幹線へ乗り込むシーン。

帰宅後、マイナビ本戦へ向けて指導をお願いしたあいとの将棋で八つ当たりめいた暴挙に出て、自己嫌悪に陥るシーン。

そして様子を見に来た姉弟子の気遣いに対して「たかが奨励会員になにができる」「三段リーグも経験してないような温い将棋とは何から何まで違う」などと露骨に見下した暴言を吐き・・・再び自己嫌悪に襲われるシーン。

もう、いかにも年頃の男の子なわけです。あいの時の暴挙で一度は自己嫌悪に陥ったはずなのに、姉弟子の時にその反省を生かすことなく、自身を御し切れずに暴言を吐いてしまうあたりとか、もう本当に等身大の年頃の少年といった感じで、そこがすごく魅力的なのです。

 

 

 

 

ほかにも、第3巻・第1譜「天敵」の冒頭、プロとしての初公式戦で山刀伐との一局もすごく印象的です。八一は「正直ナメてた」相手に惨敗し、泣き叫びながら現場より逃亡。茅ヶ崎まで走り続け、連れ戻しにきた姉弟子に「もう将棋やめる!」とゴネました。

こんなの、目頭が熱くなるしかないわけです。「あー、あったよなぁ、こういう経験」と。千駄ヶ谷から茅ヶ崎まで走るほどの悔しがり方はしませんでしたが、好きだったことを嫌な思い出と一緒に捨て去りたくなる経験は何度もあり、もう共感しまくりなわけです。

(もっとも、それでも立ち直った八一と違い、豆腐メンタルな筆者は、いくつもあっさり捨て去りましたが。苦笑)

 

 

 

バトルもの主人公は「どうせ勝つんでしょ?」と思われてはいけない

ちょっとバトルもの創作論に話を寄せましょう。

 

筆者は「人は、完璧な人間には共感・感情移入しにくい」と考えています。

強くてきれいな主人公は、とても格好良いです。正義に燃えて悪を打ち倒す、そんな勧善懲悪タイプのヒーロー、筆者も昔から大好きでした。ちなみに、小さい頃に最も好きだったメディア作品は『暴れん坊将軍』です(笑)。正直『ドラゴンボール』とかより好きでした。

 

ですが、将軍様にはなかなか感情移入できませんでした。

 

もちろん幼少期にそんなこと気にしながら作品を観ていませんから、理由は定かではありません。

ただ振り返ってみて行き着いた結論は、将軍様があまりにも完璧超人だからではないかというもの。「最後にはどうせ勝つ」とわかっている以上、感情移入しにくいのではと思いました。言い換えれば、その「わかりやすさ」が幼稚園児の自分でもハマれた理由なのかもしれません。

 

この共感・感情移入というのは、創作においてすごく大切だと思っています。理由は、読者が作品に没入できるようにするためです。

バトルものやファンタジー世界を舞台にした作品は、そもそもが「あり得ない世界」です。そのため、読者の誰一人としてその世界のことを経験したことはもちろんありません。ですので、ただ読んでもらうだけで作品世界に没入してもらうことは、極めて困難だと考えています。

 

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ところで、ここでいう「没入感」とは?

筆者は「キャラクターの後を追いかけたくなる感覚」だと考えています。そのキャラクターがこの先なにをするのか? どう変化していくのか? そうしたキャラクターの歴史に寄り添いたくなる感覚を「没入感」として定義しています。

 

では、なぜそう定義したのか?

それは自身が作品を読んでいて、続きが気になる作品、気がついたら時間がたっていた作品に共通して抱いていた感覚が、このようなものだったからです。

だからこそ、主人公は「等身大」であるべきだと思っています。作品世界と読者の世界をつなぐ、橋渡しする存在として。バトルに敗北した後、健闘を称え合ったり、もっと強くならなければと使命感に燃えたりするだけでなく、隠れて泣くほど悔しがる、その悔しさ・不甲斐なさを八つ当たりでぶつけてしまう・・・そんな等身大の主人公。いわば「第2の読者」ですね。

 

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八一は筆者にとって、まさにそんな主人公の代表格なのです。

彼は将棋が強い一方、作中でさまざまな弱さも露呈していきます。また将棋でも何度も敗北しています。

その弱さ故に「どうなるの? 勝つの? 負けるの?」と展開を追いかけたくなるのです。ハラハラドキドキするわけです。でも一方で、そのドキドキがあまりに心臓に悪くて、結論だけ先に確認しておきたくて、つい途中経過をすっ飛ばしたくなる誘惑に駆られる。九頭竜八一とは、そんな魅力を秘めた少年なのです(特に第5巻の竜王位防衛戦は、初見時に我慢するのが大変でした。笑)

 

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もっとも、万人に感情移入してもらえる作品を生み出すことは不可能。ですから、大切なのは自分が想定する読者層が「共感・感情移入」できるよう配慮すること、そして自分が書いていて楽しいキャラクターであるかどうかだと思います。

 

前者はラノベの場合、読者は10〜30代でしょうから、彼・彼女の人生経験などを想定して感情移入できるキャラクターを創造することになります。

ただし、10代と20〜30代はかなり異なる人生を送りますから(前者は学生で後者は社会人)、その全体をターゲットとして想定するのではなく、どちらかに焦点化したほうが良いでしょう。マーケティングの基本は「狭く・深く」だと個人的には思います。まずターゲットの属性を決定し(狭く)、次に彼・彼女の価値観や生活背景などを想定する(深く)、その上でニーズに合致した作品を考える、というわけですね。

 

そして、その上で参考になるラノベを探し、何度も読んで「なぜ自分はこの主人公に感情移入できるのか?」を見極め、それを自作に応用することが大切です。筆者にとっては、それが『りゅうおうのおしごと!』であり、九頭竜八一という少年でした。

参考となるラノベは、1冊でいいと思います。自分が最も惹かれた、感情移入できた主人公を思い出し、その作品をとにかく何度も読む。10回や20回ではありません。その魅力を理解できるまで何度でも。

個人的な目安としては、その魅力を「自分の言葉」で「言語化」できるようになるまで読み直すようにしています。もちろん「なんでこのキャラクターはこういう魅力を持っているのか?」を、しっかり考えながら。ポイントは「自分の言葉」という点。自分の頭を振り絞って、とにかく考え抜く、根性論めいていますが、これがやはり最も大切だと思います。

 

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もちろん書き手によって好きなストーリー展開や表現の幅、キャラクターの性格・価値観などが異なりますから、学ぶべき作品は人それぞれです。例えば、シンプルに強い敵をバンバン出していくことで、この課題を解決するという展開が好きという方もいるでしょう。『ドラゴンボール』に代表されるジャンプ的な見せ方です。

それでも、そういう方にとっても同作は極めて参考になるのではないかと思っています。勝手に(似たような部分も多いですしね)

 

ちなみに、筆者が『りゅうおうのおしごと!」に感情移入できたと判断した理由は「泣けたから」です。創作の参考にするため、2015年以降ほぼ毎朝電車の中で読んでおり、その度に目を潤ませていました。いつも電車が同じ人には、きっと変人だと思われていることでしょう。笑。

 

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余談。

別記事で挙げたキャラクターを創造する4ステップですが、もうおわかりのとおり、八一との出逢いがベースとなっています。なぜ彼はあんなにも魅力的なのか? それを考え続けた結果、自分なりの結論として導き出したのが、あの4ステップでした。

 

 

smug.hatenablog.com

 

といったところで、今回はおしまい。

次の分割は、また後日に投稿します。